国際的陰謀論の中心に鎮座する謎の組織、フリーメイソン。
陰謀論や秘密の儀式、思想などに迫っても、それは具体性を欠いた抽象論に過ぎない。
果たして彼らの実態は?

フリーメイソン本の多くは「海の向こうに歴史を裏から操っている影の組織が存在し、日本にも触手を伸ばしているらしい」という陰謀ものや神秘思想ものである。
本書のユニークな点は、この日本の、しかも地方都市の1ロッジ限定の通史に徹することで、メイソンの等身大の姿を描き出そうとしていることだ。

「秘密結社の会合は、カレー屋の2階で開かれていた」
「通学路に建つロッジ」
「ロッジが老朽化。漏電のため近隣一帯が停電に。地元の市当局から施設閉鎖勧告を受ける」
「会計係が運営費をネコババ。資金不足で拠点を喪失」
「結成100周年パーティーの会場は、庶民派のプリンスホテル」

など、従来のイメージを覆す「フツー過ぎるフリーメイソンの実態」が明らかにされていく。

「秘密結社」というイメージとは裏腹に、実際のメイソンは地域コミュニティと密接な繋がりを持っている。本書を一読すれば、遠い世界で起こった自分とは無関係な話だと考えていたメイソンの歴史が、まちがいなく日本の近代史の一部である、と実感できるだろう。

戦時中、メイソン会員たちが財産を没収され、軽井沢の強制収容所に軟禁されていた話など、日本におけるメイソンの歴史は知られていない部分が多すぎる。

メイソンの歴史はいくつかの街において、間違いなくミッシングピースだ。いままで書かれてこなかったのは、会員の多くが外国人だったこと、そして資料の多くが英語だったからである。

郷土史と直結させることで「ご当地」という観点からフリーメイソン語りを試みた、過去に例を見ない一冊といえるだろう。

付録として、大正デモクラシーの立役者にしてフリーメイソン研究家でもあった吉野作造の「所謂秘密結社の正体」(初出:『中央公論』1921(大正10)年6月号)を収録。
文字数=64,708文字(その内付録部分は33,853文字)

(雑誌『季刊レポ』8・9号掲載「東京からいちばん近いもう一つの国」「彼らはずっとそこにいた」に加筆を加え、付録を収録)